開発のきっかけは思わぬところからやってくるものです。
今回はそんな稀有な偶然の連続から生まれた製品の話を紹介します。
とあるユーザーから相談を受けました。ユニパルスのヒット製品、回転トルクメータ「UTMシリーズ」のユーザーです。
「トルク制御ができる回転アクチュエータを作れない?」
まずは市販のサーボモータと減速機を使い試作しました。それが今のユニサーボの原型です。
展示会ではなかなかの反応でした。本格的に開発することにしました。
まずは、ACサーボモータを供給してくれるメーカー探しからでした。市販のモータではトルク信号を使った制御が難しかったからです。
残念ながら相手にしてくれるメーカーは見つからず、モータから内製化することにしました。名前をユニサーボとし、初号機を2014年9月の関西機械要素技術展に出展しました。
そのとき、大手自動車メーカーの技術者から、このユニサーボの技術で電動のバランサが作れないかと相談されました。
電動ホイストやエアバランサは自動車の生産工程で多数使われているが、様々な問題がある。 また、全社で脱エアの方向に向かう中、今使用しているエアバランサを電動化したい、という要望でした。
そこで早速、200Wのユニサーボを使って電動バランサのデモ機を作ってみました。 これを2015年6月の機械要素技術展、次に80Wのユニサーボを使ったデモ機を2015年10月のメカトロテックジャパンに出展しました。
展示会での反応は上々で、この電動バランサを製品化することにしました。
商標を社内で募集し、機構設計担当エンジニアの進藤さん考案の「Moon Lifter(ムーンリフタ)」に決めました。まるで月面みたいな無重力感が表現されています。
初号機は、200Wのユニサーボをベースにワイヤで吊りあげる方式でした。出力軸には落下防止のブレーキがあり、起動時に一旦最上部まで巻上げることで原点出しを行い、ワイヤの繰出し量を測定します。最大巻上げ速度は350mm/s、定格荷重は60kg。
これを2015年12月の国際ロボット展に出展しました。
展示会ではお客さまから様々なご意見をいただきました。外観を改善し、最大巻上げ速度を500mm/sに、最大荷重を80kgにアップさせたML-80Kを、2016年4月の名古屋機械要素技術展に出展しました。
この頃は重筋作業のサポート装置というコンセプトでの開発でした。最大荷重はせいぜい50kg程度、最大速度は500mm/sとし、作業者の「操作感」を妨げないことを重要視していました。揚程も2mもあれば十分だろうと考えていました。
しかし、だんだんこんなことが分かってきました。
ワイヤをチェーンに変更すれば、交換する必要がなくなります。チェーンピッチの定期点検だけで事足ります。ワイヤのように小片が離脱したりすることもありません。
チェーンにすればさらに便利になることは分かっていました。でも、チェーンに関する技術的な知見は社内に全くなく、開発は不安だらけでした。
まずは、チェーンの供給先を探しました。 国内では適当なところが見つからず、ドイツ製のものを暫定で使用しました。 巻上げのためのスプロケットは、様々な寸法で試作しました。 摩耗や異音などの原因究明や検証を繰り返し、最終的な形状と材料を決定。
ようやくチェーンタイプのML-80Kを、2016年5月のサービスロボット開発技術展に出展しました。
その後の紆余曲折は壮絶でした。
ML-50Kは軸トルクを測定して巻上げ荷重を検出していました。ワイヤからチェーンに変更したことでチェーンピッチごとの荷重の変動が現れ、ワークの操作感に大きく影響していました。
荷重が大きくなったからといって軽快な操作感を損ないたくはありません。
そこで、荷重の検出方法をトルク測定方式から荷重測定方式に変更しました。また、より重いワークに対応できるように、チェーン径を3mmから4mmに変更しました。4mmチェーンは、理論的には安全率8倍として300kg程度まで吊ることができます。
モータ、減速機、ロータリーエンコーダ、スプロケット、電子回路など全てを1から再設計し、ML-60K/120Kとして2017年4月の名古屋機械要素技術展に出展しました。
実はその頃、下からワークを持ち上げるテーブルタイプのバランサも開発していました。残念ながらこちらは十分に原価を下げることができず、展示会には参考出展したものの開発は断念しました。
ML-120Kはそれまでの機種と比較して良く売れました。 人の手では取り扱えない荷重を扱う機種で、ホイストやチェーンブロックに不便を感じていた現場に 解決策を提示できたからだと考えています。
ML-120Kの販売が進むと、それ以上の容量の要望が更に多く寄せられるようになり、減速比を変更したML-240Kを2017年9月のフードディストリビューション展に出展しました。
さらに、揚程をもっと取りたいとか、手元スイッチを複数にして上端と下端で操作をしたいとか、手元スイッチを別の場所に設置したいとか、利便性を追求する要望がユーザーから寄せられるようなりました。
そんなときにボトルネックになったのがスパイラルケーブルの存在です。
ワークを吊るフックの上に設置していた手元スイッチにケーブルを導くため、スパイラルケーブルは必須です。しかし、スパイラルケーブルの長さの制限により、揚程は2mまでに制限されていました。その上、このスパイラルケーブルは縮めた状態で200mmの長さがあり、手元スイッチの高さも相まって実質約300mm程度が揚程に使えません。このため、天井が低い現場でスパイラルケーブルを外して使うユーザーも現れてきました。
スパイラルケーブルを無くすために、手元スイッチを無線化する必要がありました。しかし、手元スイッチに無線を導入して安全を確保できるかは、慎重に判断する必要がありました。事故が起こっては元も子もありません。
工場内は無線LANを使っている機器が多数あります。これらと干渉する可能性がある2.4GHz帯と5GHz帯の使用はNG。また、複数のムーンリフタを使用するときに別の端末の操作で動作することは絶対にあってはならないこと、手元スイッチが壊れていて且つワークが宙づりのとき、本体操作でワークを安全に下ろせることなどの条件が提示されました。
これらをクリアした仕様で無線化し、2018年1月のロボデックスに出展しました。
無線端末とムーンリフタ本体は、相互にオンライン状態であることを常に確認しています。何らかの理由でオフラインになった場合にはブザー音でお知らせ、数度の自動リトライで復帰しなければ安全に停止します。
「安心してつかえる」ことに注力したプロトコルにしました。
無線化によってスパイラルケーブルが無くなり、揚程は最大9mまで拡大し、天井が低い箇所でも無理なく使えるようになりました。さらに手元スイッチは、ベルトにかけたり離れたところから操作したり、好きな使い方ができるようになりました。
要望が多かった240kg以上の容量は、動滑車を使用したML-480Kをインターモールド2018に出展しました。
現在は最大荷重が960kgのMLH-960Kを販売開始しています。
ワークが1t近くになっても数百gfの力で軽くハンドリングしたい。それを実現するために、ユニパルスの得意分野である高精度アンプと信号処理技術を駆使して、満足いく性能の荷重センサを組み込んでいます。モーターの出力は従来のMLシリーズの約4倍、チェーン径も4mmから8mmになり、独自のアルゴリズムで制御しています。
MLH-960Kを発売するやいなや、2tの容量の要望も多く寄せられるようになってきました。
チェーンの耐久性にも徹底的にこだわりました。
巻き上げ機構には様々な素材・形状を試し、現在ML-60Kでは定格荷重で100万回、ML-240Kでも40万回の寿命試験をパスしています。ML-480Kは動滑車を使用しているのでチェーンの摩耗には不利であるにもかかわらず10万回以上をクリアし、MLH-960Kはなんと17万回を超えて現在も記録を更新中です。
Moon Lifterはお客さまに寄り添い、お客さまの声を反映することで進化してきました。 これからもお客さまから、「これこれ、こんなのが欲しかったんだよ」と言っていただけるよう、開発に邁進して参ります。